2009年6月5日金曜日
ライ麦畑の冒頭一文 デイヴィッド・カパーフィールドとは
さて、おさらいもかねて原著、野崎訳、村上訳を見比べてみよう。
If you really want to hear about it, the first thing you'll probably want to know is where I was born, and what my lousy childhood was like, and how my parents were occupied and all before they had me, and all that David Copperfield kind of crap, but I don't feel like going into it, if you want to know the truth.[Salinger,1945-6 p.1]
もしも君が、ほんとにこの話を聞きたいんならだな、まず、僕がどこで生まれたとか、チャチな幼年時代はどんなだったのかとか、僕が生まれる前に両親は何をやってたかとか、そういった《デーヴィッド・カパーフィールド》式のくだんないことから聞きたがるかもしれないけどさ、実をいうと僕は、そんなことはしゃべりたくないんだな。[野崎孝,1964 p.5]
こうして話を始めるとなると、君はまず最初に、僕がどこで生まれたとか、どんなみっともない子ども時代を送ったかとか、僕が生まれる前に両親が何をしていたかとか、その手のデイヴィッド・カッパフィールド的なしょうもないあれこれを知りたがるかも知れない。でもはっきり言ってね、その手の話をする気になれないんだよ。[村上春樹、2006 p.5]
***
もう原文はすこし覚えてきたんじゃないだろうか。二人の訳の世界観も垣間見られる。ところで、デーヴィッド・カパーフィールドもといデイヴィッド・カッパフィールドってだれ? と思った人は割といるだろう。自由の女神を消した人、といえば顔が思い浮かぶかも知れない。グランドキャニオンを飛んで渡ったり、ショーの舞台からリゾート地にテレポートしてみたりする有名マジシャンだ。
で、枝葉末節だが、野崎訳だとデーヴィッド・カパーフィールド、村上訳だとデイヴィッド・カッパフィールドとなっている。そもそも外国語をカタカナにする基準はないが、カッパフィールドよりはカパーフィールドの方がより近いはずだ。それとも彼のことを知らない読者のために村上はあえてカッパ(河童)フィールドにしたのか。まさか野崎訳との違いを出すため? 野崎訳のデーヴィッドよりは、村上のデイヴィッドの方がより英語に近いし、何か意図的なものを感じたりもしたが、うがちすぎだろう。
カタカナ表記の違いはともかく、このデイヴィッド・カパーフィールド的なしょうもないあれこれとは正直よくわからない。ご存知の方がいたら教えてほしい。推測すると、彼がマジックのために観客のなかからだれか指名し(サクラかもしれない)、その人がショーステージに上がったときに質問するあれこれだろうか。
これを考えると今日も眠れそうにない・・・
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1.『ライ麦畑でつかまえて』(ライむぎばたけでつかまえて, 英:The Catcher in the Rye)は、J・D・サリンジャーが1951年に発表した小説である。
返信削除2.デビッド・カッパーフィールド (David Copperfield 、本名、David Seth Kotkin 、1956年9月16日 - )、アメリカ、ニュージャージー州生まれのロシア系ユダヤ人、世界を代表するプロマジシャン(手品師)。
3.『デイヴィッド・コパフィールド』(David Copperfield)は、チャールズ・ディケンズの長編小説。1849年から1850年にかけて、雑誌に月刊連載された。カタカナ表示だと、デヴィット・カッパーフィールドの方が英語発音に近いのでそう表記されることもある。
したがって2の手品師ではなく、3の小説の方。
多分、ディケンズの自伝的長編、『デイヴィッド・コパフィールド』です。
返信削除デイヴィッド少年が生まれる前に父が他界し。虐待されて育ち……それでも最後は成功する物語。
「僕がどこで生まれたとか、どんなみっともない子ども時代を送ったかとか、僕が生まれる前に両親が何をしていたかとか」
これらの要素が全て詰まっています。(中野好夫訳、1967、『デイヴィッド・コパフィールド(一)』新潮社)